尾上松也の耳からはじめる歌舞伎入門
歌舞伎俳優の尾上松也でございます。この度は連載記事を書かせて頂く事になり、光栄に存じます。このコラムでは「みみから。」のテーマでもございます、聞いて楽しむエンタメコンテンツを私が出演しております歌舞伎を通じて、「きこえ」の魅力をご紹介出来たならば、何よりの幸せです。この先数ヶ月間、よろしくお付き合いくださりますよう、お願い申し上げます。
最終回:「口上」
昨年より連載を続けて参りました「尾上松也の耳からはじめる歌舞伎入門」も、今回で最終回となりました。限られた時間でありましたが、このコラムを通して皆様と触れ合う事が出来ましたのは大変に貴重な経験でございました。
歌舞伎は様式美の芸術です。ストーリーは荒唐無稽であったり、扮装は目を見張る程奇抜であったり、与える印象は実に多種多様です。理論やつじつまより、見た目の美しさの表現を最も優先させた結果、歌舞伎は現在ある姿に進化を遂げたのでした。
皆様にご紹介するにあたり、歌舞伎は理屈抜きにおおらかに楽しんで頂きたいと考え、様々趣向を凝らしました。少しでもこの思いがお伝え出来たとしたら、この上なき幸せでございます。
歌舞伎には「口上(こうじょう)」と呼ばれるご挨拶がございます。紋付の着物に裃(かみしも)姿で、もしくはお役の扮装のまま、役者が舞台に正座をし手をつき観客席を見据え、格式張った口調でリズミカルに、挨拶の言葉を述べるというものです。大きな名前の襲名披露公演では、金屏風が置かれた舞台上に裃姿の役者がずらりと並び、ひとりひとり順番に挨拶をするだけの、その名も「口上」という一幕が繰り広げられます。
この連載を終えるにあたり、僕も皆様にこの様な挨拶をご披露いたそうと思いつきました。ささやかな口上を用意いたしましたので、どうぞお聴きください。
(この記事の上下に設置の「この記事を聴く」の表記をクリックして、音声をお楽しみください)
長い間「尾上松也の耳からはじめる歌舞伎入門」にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。またいつか皆様と触れ合う機会が持てます事を、心より楽しみにしております。